作者の没後50年が経ち、著作権が消滅した文学作品をインターネット上に公開している青空文庫。インターネットにアクセスできる場所であれば、いつでも名作古典の数々を読むことができます。
そんな便利な青空文庫をkindleで読みたいと思い、kindleサイトでダウンロードしている方もかなり多いのではないでしょうか。
kindleであればオフラインの状態でも作品を楽しむことができますし、PCやスマートフォンの画面と違い「目に優しく」作品を読むことができるとあって、利用者も多いはずです。
とはいえ、『星の王子さま』や『こころ』など有名な作品を読んでしまった後は、意外と「次の作品が見つからない」という事態に陥りがち。
kindleで読みたい!という想いが冷めてしまう前に読んでおきたい名作を紹介していきます。
8位 銀の匙 / 中勘助
かなり有名な作品ではありますが、1913年初出の作品とだけあって、文章が少し読みにくいと感じる方もいるかもしれません。しかし、その文体は夏目漱石が評価したように、綺麗で落ち着きのある文体になっています。
決して硬い文章ではなく、話し言葉や当時使われていた言葉などがそのままの形で書かれているため、当時の雰囲気をいくらか感じることのできる作品と言えそうです。
作者の幼少期の記憶を「銀の匙」をもとに回想しながら、ひ弱な〈私〉が成長していく物語となっています。
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私がとても素晴らしいと感じているのは、細かい描写や言葉の選択だ。例えば、「風のはこんでくる水車の音と蛙の声」という描写では、風は肌に当たる触覚だが、水車の音と蛙の声は聴覚なので、二つの感覚が一緒に刺激されている感じがする。また、そのすぐ後で「たおたおと羽ばたいてゆく五位のむれ」という描写があるが、「たおたお」(たおやかなさまという意味らしい)という単語は初めて出会って意味はよく分からなかったが、なぜだかとてもしっくり感があった。
7位 一房の葡萄 / 有島武郎
簡単なあらすじとしては、西洋人ばかりが住んでいる港町で育った僕が「ジム」という生徒の高価な絵の具を盗んでしまい、それがばれて、先生に叱られた後、一房の葡萄をもらう、というものです。
とても短い作品のため、あっという間に読めてしまいますが、物語の余韻が長く続く作品となっています。
幼い少年が学校の先生に抱く想いというものを、赤裸々に語った作品と言ってもいいのかもしれません。
読んでいて少々照れくさいような気もしてきますが、当時の作者が感じていた美意識のようなものを垣間見ることができます。
西洋の文化と日本の文化の調和のようなものが「一房の葡萄」に込められていると感じる物語です。
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人を傷つけたり虫を殺したり物を盗ったり…
この少年もただ美しい絵が描きたいとの思いから友達の絵具を盗ってしまいます。
その結果は…悲惨なものとはならず先生と友達に救われます。ひどい教師も残忍な友達もいるだろうがこの少年は恵まれていました。
女の先生の大理石のような白い美しい手に載る紫色の葡萄が目に浮かびます。
少年期のさみしさや淡い恋心が思い出されてせつなくなる一編です。
今の子供たちや先生は読むのかな?ぜひ読んでほしい。いじめや教師の体罰などの問題がある中で自らを省みるよい教本になると思います。
6位 檸檬 / 梶井基次郎
梶井基次郎の作品をいくつか読んでいると、美術や音楽といったジャンルにも関心を強く抱いているのが分かります。
「関心」というだけでは、梶井基次郎という作家の作品を理解する上で不十分と言われてしまうかもしれませんが、読書とあまり縁のない人が読んでも、この『檸檬』という作品に漂う芸術性の高まりのようなものが感じられるはずです。
「綺麗」よりも「繊細」という言葉がぴったり合う作家ではないでしょうか。
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子供の頃読んだときは背景にある焦燥が理解できなかったが、大人になった今では似たような経験も幾らかしており、新鮮な気持ちで読むことができた。
5位 オリンポスの果実 / 田中英光
初出1940年の作品ということもあり、文体は現在とあまり変わらず、読みやすい印象を受ける作品です。
読点「、」でつなぐ文体が特徴的で、言葉選びがどこか女性らしいため、やわらかい感じを抱く読者も多いのではないでしょうか。
冒頭の「恋というには、あまりに素朴な愛情、ろくろく話さえしなかった仲でしたから、あなたはもう忘れているかもしれない。しかし、ぼくは今日、ロスアンゼルスで買った記念の財布のなかから、あのとき大洋丸で、あなたに貰った、杏の実を、とりだし、ここ京城の陋屋の陽もささぬ裏庭に棄てました。そのとき、急にこうしたものが書きたくなったのです。」を読めば、その柔らかさが分かりますよね。
田中英光はこうした『オリンポスの果実』といった作品を書きながら、無頼派というグループに属していたことでも知られています。
田中英光についてはこちらのサイトで紹介がありましたので気になる方はどうぞ。
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4位 白痴 / 坂口安吾
先ほど無頼派について触れましたが、無頼派といえば「太宰治」と「坂口安吾」の2名が主要な人物として紹介されます。
参考 日本文学のジャンル―無頼派とは?―幻冬舎ルネッサンス新社
坂口安吾の作品、特に『白痴』には、人間の本質とは一体何であるのかが強く描かれているのではないでしょうか。
『いづこへ』なども「人間が生きるとはどういうことなのか」を主張する作品に思えますし、「人間が堕ちるところまで堕ちて、そこでどう生きていくべきなのか」をまっすぐに見つめる坂口安吾の姿勢には、現代に生きる私たちにも影響を与え続けています。
破天荒な生き方をしたといわれている無頼派ではありますが、彼らの書いた文学作品の数々を読めば、なぜそのような作風に至ったのか、きっと分かってくるはずです。
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戦時中ならではの狂気がどうしても印象強いけど、白痴を見事に物語に組み込んでいて、主人公の感情を読み取りやすかった。文豪の話は読みにくいイメージが未だにあるけど、坂口安吾の辛気臭さは現代人の私でも想像しやすい。
生活の方に目がいくからかもしれない。面白かった。
3位 風と光と二十の私と / 坂口安吾
特別枠、というものがあればいいのですが、坂口安吾の作品ではちょっと珍しい作品かもしれません。その位置づけについてはこちらのサイトがよく紹介していました。
参考 「風と光と二十の私と」美しい時間が流れる小説の醍醐味シンキング・パドー
なんと形容すればいいのか、未だに言葉が見つかりませんが、一応の説明をしてみると、『風と光と二十の私と』は、「大人になる寸前の人間が「人生の秘密」のようなものを直感する、その様子を、自身を透かして文字に起こすことに成功した作品」となるでしょうか。
いろいろな人生が目の前で「生きている」のを目撃した著者は、20歳という現実の自分をいつのまにか離れ、相談を受けたり、助言をしたりする中で、すごく年老いた気分になってしまっています。
その一連の行為の中に、ふと「ほんとうのもの」を感じたのかもしれません。全く色褪せない素晴らしい作品です。
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2位 銀河鉄道の夜 / 宮沢賢治
日本の名作古典といえば、必ずこの作品を挙げる人が出てきますよね。
文学好きの方からすると無難な選択のように感じますが、それだけの魅力があって読まれ続けているのだと、読み返してみて改めて感じることができます。
ジョバンニ少年が体験した「銀河鉄道の夜」を、その生活の貧しさから現実の延長として読むことも可能でしょうし、一つのファンタジーとして読むことも一概に間違いとは言えないような気がしてきます。
読んでいる間に抱いた直感的なものは、次におすすめする作品を読んだ時と、どこか似たようなものでした。
時代的なものなのか、文体から感じる懐かしさのようなものなのでしょうか、いずれにしても読み応えのある作品です。
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主人公が夢の中で銀河鉄道に乗車するというファンタジー小説で、ジャンルとしては童話なのだが、少年少女がこの作品を読んで作品の意味が理解でき、面白いと感じるのだろうか。また、同じ人でも、読む年齢に応じて、違った感想を持つのではないだろうか。
印象に残ったのは、ジョバンニが蠍のエピソードを聞いて「みんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」と思う場面と、カムパネルラがいなくなった直後の「セロのような声の持ち主」との対話。
「銀河鉄道の旅」とは「人生」のことであり、「銀河鉄道の切符」は「この世で与えられた命」のことなのかなと思った。
1位 トロッコ / 芥川龍之介
『トロッコ』という作品は、あくまで現実の世界が舞台となっていますが、読み終えた感想としては『銀河鉄道の夜』と少々似たような感覚になることでしょうか。
個人的には、少年の時分で抱く「世界」に対する想いを「冒険」という方法を使って知ろうとする、そしてもとの世界に帰ってくる、という段階を踏んでいることがそうさせるのだと感じています。
この作品では、誰もが幼い時期に感じていた「世界」に対するおおよその「理解」と「未知」の境界を、いつのまにか超えてしまっていた少年を描いています。
幼い頃は「知りたい」という好奇心に負けて色々と冒険に出てしまうものですが、この『トロッコ』の時代にはそれが命取りになることだってあり得たのかもしれません。
スマートフォンなどの電子機器が発達した今では、作品で描かれる「完全な孤独」と向き合う場面は少ないですが、作品を通じてそれを経験することの意味を知ることはできるのではないでしょうか。
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普通大人になると、いつの間にか子供だった時の事をすっかり忘れて、子供に勉強しなさいとか宿題はやったのか!とか言うのに(笑)
美しい山河や海の傍で育ち、年上から面倒を見てもらい、年下の面倒を見るのが当たり前だった地方の元少年たちには懐かしく、ほろ苦い郷愁と共に思い出の秘密基地や駆け回った金色の薄野原が心に浮かんで来そうです。
結びで26歳になった主人公は不意にあの時の鮮烈な体験を思い出し、そんな不安や怖さは今も形を変えて生活の中にやはりあるのだと吐露します。
寂しい夕暮れに一人、トロッコで来た線路を必死に駆けて帰った様に・・・
あえてkindleで読むということ
便利な電子機器に囲まれ、あらゆる技術が最新の携帯端末へと搭載されていくなかで、わたしたちはどのような態度でそれらの進化と向き合うべきなのでしょうか。
便利になる一方で、失われていく「何か」が一体何であるのか、それを知ることは今後の未来を生きていく上で必要なことかもしれません。
本を読むということ、それは本来であればとても私的なことですが、今ではそれがいかに「開かれているか」にフォーカスされているように思えます。
矛盾しているように感じるかもしれませんが、新しい視野を手に入れながらも、深く自分自身を見つめるために、青空文庫を「あえてkindleで読む」という行為は意外と効果的だったりするものです。