忘れたときに、本屋に忽然を姿を現す「芥川賞受賞」「直木賞受賞」の文字。「あれ?ついこのあいだもやってなかったか?」と、感じたこともあるのではないでしょうか。
とりあえずなんかすごい賞なのだろう、ということは漠然と感じていても、あながち詳しい事情(そもそも2つの賞の何が違うのか)は知らない人も多いでしょう。【解説§文学賞】(シリーズ?)はまず、この代表的な文学賞を解説していきます。
芥川賞と直木賞、違いはなに?
まずは、芥川賞と直木賞両賞が並べられる理由と、この二つの違いについてざっと見ていきたいと思います。ただ、カンタンにいうとこういうことです。
・創設者である菊池寛と、芥川龍之介・直木三十五はお友達だった。
・芥川賞は純文学に対して贈られる賞(芥川賞=純文学)
・直木賞は大衆文学に送られる賞(直木賞=大衆文学)
・しかし実際のところ、明確な区別はない
同時に作られた芥川賞と直木賞
芥川賞と直木賞んの両賞は、菊池寛が自身の創設した文藝春秋への貢献を讃えるために、同時に作られました。創設年は、1935年。一時数年の空白期間がありましたが、かれこれずっと続いてます。
カンタンに言えば、「俺のために頑張ってくれたからな。ほらよ。」と、2人をヨイショするための賞を作ったということです。
細かいことですが、はじめ文藝春秋によって運営されていた、芥川/直木賞ですが、第7回から、新たに興された、財団法人日本文学振興会に運営を移管されています。
芥川賞と直木賞の違いについて
それでは、ここで簡単に芥川賞と直木賞の違いを説明していきます。
端的にこういうことです。
・直木賞は、大衆文学に対して贈られる賞
より具体的なことは、各賞についての節で詳説していきます。ただ、ここで1つだけ言っておきたいことは、芥川賞の選考基準と、直木賞の選考基準は定められているものの、明確な線引きをすることは難しいということです。
芥川賞と直木賞の同時受賞について
実際、何度か芥川賞と直木賞の両賞にダブルノミネートされている作家もいます。
ちなみに、漫画「響~小説家になる方法~」のなかで、主人公の響が芥川賞と直木賞を同時受賞していますが、実際に同時受賞者が出たことはありません。
では、絶対にありえないのかというと、そうではないみたいです。時代の移り変わりとともに、同時受賞などということもあるかもしれません。それは例えば、響のような中学生がとることだってあり得ないことではありません。
なお、「芥川賞 直木賞」と検索して、ほぼトップに出てくるページの中で、「同時受賞はありえない」と言われていますが、そういうわけではありません。
直木賞研究家の川口則弘という方がいて、その人が書いた記事の中で、(「まずありえない」と言いながらも)同時受賞の可能性を示唆しています。
参考 「響-HIBIKI-」の天才少女は現実にあり得るか東洋経済ONLINE
芥川賞について
では、ここから具体的にそれぞれの賞についてみていきましょう。まずは芥川賞から。
芥川賞の基礎情報
まずは、芥川賞(正式名称=芥川龍之介賞)の基礎情報を見ていきます。なお、ここでは次のようなサイトを参考にしています(直木賞についても同様です)。
芥川賞の創設年、開催数、開催時期等
芥川賞。正式名称は「芥川龍之介賞」です。1935年に、直木賞と同時に創設され、現在までに、161回受賞作が選ばれています。
芥川賞は、年に2回、7月(上半期)と1月(下半期)に開催されます。
下半期=6月1~11月30までに発表された作品が対象。
そして、毎回1作品が受賞するという決まりはなく、一度に2つの受賞作が出たり、受賞作品が無かったりということもあり得ます(というか実際にありました)。
芥川賞の受賞規定
それでは、芥川賞ではどのような作家(作品)が受賞できるのでしょうか。まずは要点を押さえておきましょう。芥川賞として受賞できるのは、以下の点を満たしているものです。
・短編、中編の作品であること
・雑誌に掲載されたものであること
・純文学であること
では、それぞれについて、簡単に見ていきます(要点だけ知りたい人は読み飛ばしても問題ありません)。
まず、「無名、新人である」ということについて。その言葉通りなのですが、ただ、実際のところ、「誰基準?」という疑問はあります。
例えば、2019年上半期に受賞した今村夏子などは、受賞以前にも多くの作品を発表しており、すでに十分な知名度を持っていたと言えます。が、それも僕から見れば、ということですが。いずれにせよ曖昧です、としか言いようがないです。
次に「短編、中編である」という点について。これは比較的分かりやすいでしょう。とはいえ、どこからどこまでが中編で、どっからが短編なのかという点は、実のところ明確ではないのです。
「雑誌に掲載された」かどうかはわかりやすいですね。たとえば、雑誌『新潮』や『文學界』などですね。
で、最後に「純文学である」ということ。これがまぁ、一番曖昧ですね。曖昧過ぎるので、そういうものだと思ってください。辞書的な意味だけ書いておきます。
受賞までの流れ
ここでは受賞までの流れを書いてきます。その前に、不要とは思いますが、無邪気な読者のために、一応但し書きを残しておきます。
では、見ていきましょう。
直木賞について
次は、直木賞(正式名称=直木三十五賞)を見ていきます。もし彼の名前が覚えにくかったら、「NOK35(エヌ・オー・ケー・サーティファイブ)」と思えればいいと思います。
基本的に芥川賞と一緒なので、気楽にいきましょう。
直木賞の基礎情報
それでは、まず直木賞の基礎情報を見ていきます。
直木賞の創設年、開催数、開催時期など
基本的に、芥川賞と一緒です。
1935年に創設され、年に二回(1月と7月)開催されます。その際に、上半期と下半期に分かれて、上半期は12月から5月までに発表されたもの。下半期は、6月から、11月いっぱいまでに発表されたものが対象となります。
直木賞の受賞規定
ココが芥川賞と違ってくるところです。では、要点をまとめましょう。
・短編から長編までが対象
・雑誌(同人雑誌を含む)に掲載、あるいは単行本として発売されたものであること
・大衆文学であること
芥川賞と違うところは、まず、中堅の作家でも受賞できるというところでしょうか。近いところでいうと、恩田陸などはもはやベテランといっていいのではないかというレベルの作家ですが、2016年に、映画化もされた『蜜蜂と遠雷』で受賞しています。
『蜜蜂と遠雷』を読んだことがある人ならわかると思いますが、あれは、かなりの長編です。ここも、芥川賞と違います。
そして、単行本でもOKという点も異なっているでしょう。
以上のような細かい違いもありますが、芥川賞が「純文学」対象であるのに対して、直木賞は「大衆文学」が対象であるという、最も大きな、そして最も曖昧な違いがあります。大衆文学は、主にエンターテイメント性が求められます。
さて、この記事の序盤で両賞の違いをおおざっぱにまとめましたが、ここまでを踏まえたうえで、もう一度、違い(だけ)を明確にしておきましょう。
・受賞できる作品の長さに違いがある
・受賞できる作品の発表媒体に違いがある
・受賞できる作品のジャンルに違いがある
これをさらに凝縮すると、「経歴」「長さ」「発表媒体」「ジャンル」という4つの観点において、違いがあらわれています。
受賞までの流れ
芥川賞と基本一緒です。一応再掲します。